先日、静嘉堂文庫美術館に曜変天目茶碗を見にいってきました。
 この曜変天目茶碗とは、茶碗の中でも最も評価が高いとされている茶碗です。世界に現像んするのは3つのみとされ、その3つ全てが日本国内で所蔵されています。無論3点全てが国宝に指定されています。その国宝のうちのひとつである静嘉堂文庫美術館所蔵の通称「稲葉天目」を鑑賞してきました。

 今回足を運んだ展覧会はこれ。


「受け継がれる東洋の至宝 PartⅢ
曜変・油滴天目 -茶道具名品展- 」

です。
メインは曜変天目と重要文化財である油滴天目ですが、他にも茶道具や花器が多く展示されています。規模は小さいですが、見応えはあるかと。
会期は2013年 1月22日(火)~3月24日(日)です。
始まったばかりで終了までにはまだまだ時間がたっぷりありますので興味をもたれた方は是非。

 天目茶碗とは、唐物茶碗の一種で、鎌倉時代(1186~1392)に日本の禅僧が浙江省天目山の禅寺に留学し、持ち帰った茶碗のことを指しています。
 この天目茶碗の中にも曜変・油滴・灰被・禾目など多数の分類が存在しています。その中でも最も評価が高いのが今回のメインであった「曜変」。それに次いで「油滴」が評価されています。実はこれは天目茶碗に限ったことではなく、「陶器」という一つのジャンルの中でも言えることであるようです。天目茶碗というくくりだけでなく、陶器の中でも非常に高い地位にあるこの曜変。なぜそこまで評価されるのでしょうか。


曜変天目茶碗は、碗の釉に無数の大小様々な斑文がありその周囲に青、藍色、金といったさまざまな色の光彩が浮かび上がる非常に幻想的な器です。この光彩は光りの照射によって色も変化し、照らされない場合は地味な黒の茶碗でしかないそうです。(わたしは照らされていない状態は見たことがないので実際の所はどうなのか不明ですが……)
 写真では金色が青色と同じくらい目立っているように思えますが、実際見るとそこまで目立つ色ではなくほぼ青色といった感じでした。
 しかし、その青色が非常に幅広く、鮮やかな水色であったり、深みのある藍色であったりと青という色について考えなおさせられるようなグラデーションが碗の中で展開されていました。
釉はただ黒というのではもったいないまさに漆黒といった感じの色で、まばゆく光る金色を含んだ青い光彩から一歩下がって器により広がりを見せていたように思います。この漆黒の背景があるからこそ、光彩はその”曜”の字にふさわしい、星空とも宇宙ともとれるような輝きをわたしたちにもたらすことができるのだろうなとしみじみ思いました。
 写真だとすこし斑が目立って気持ち悪く思う人もいるかと思いますが、実際はもう少し斑は目立たなくて非常に上品で控えめな印象でした。
 しかし、とても美しい一品だった。この一言につきます。
 実はこの曜変の光彩はどのようにすれば作れるのか未だに不明な点が多いとのこと。だからこそ、世界に3点しか現存していないのであるようです。
 


 また、曜変と共にメインとして据えられていた重要文化財「油滴天目」。
 こちらは曜変に比べれば数が多いため価値は下がるものの、古くから評価されてきた器です。
 曜変とは違い、第二酸化鉄が付着したことで斑の内部に光彩が見られます。全体として銀色のきらめきが目立ち、器自体は大ぶりであるものの上品な姿をしています。朝顔形の縁がより、器を大きく見せているのでしょうが、その曲線がとても艶かしく、ほれぼれとしてしまいました。知的な色気を感じました。
 曜変は碗の外側にはほぼ光彩が確認できないのに対して、こちらは外側全体に斑が確認できます。光の照射の関係でしょうが、碗の内部の斑は銀色っぽいきらめきであったのに対して、外側は微弱ではあるものの赤・青・紫といった多彩なきらめきを放っていました。
 曜変の方がより価値が高いことはわかっているのですが、個人的な好みとしてはこちらの油滴天目の方が好きでした。非常に綺麗。
 しかし、曜変もやっぱり好きです。結局はどちらも好きです。美しい。

 今回鑑賞したのは日本にある曜変の中でも「稲葉天目」と呼ばれているものです。この「稲葉」というのは最近ドラマをやっていた「大奥」でもでてきた春日局の実家である稲葉家の稲葉です。もともとこの稲葉家が所蔵していたことから稲葉天目と通称されるに至ったのです。
 しかし、それよりもっと前の持ち主を辿るとあの徳川家3代将軍・家光に行きつきます。あのドラマの大奥は逆転大奥で史実を脚色してはいるものの、中で描かれた晩年の春日局が病弱な家光のために薬断ちをしていたことから、自身が病に倒れても薬を飲まなかったということは事実であるようです。この場面において家光は「曜変」に薬湯を入れて春日局に薬を飲むように命じたのだそうです。結局春日局は薬断ちの誓いを守り、その薬湯を飲んだふりをするにとどまったのですがこの「曜変」は春日局のもとに残りました。そして、後に春日局の孫・稲葉正則に伝えられ、後年に至るまで稲葉家が所蔵するに至ったのだそうです。
 曜変には見た目の美しさもさながら、その器にまつわるエピソードもまた魅力的です。
 茶碗にはあまり興味がなかったのですが、この曜変との出会いは人生の中でも非常に得がたいものであったと思います。
 わたしの人生のなかで全ての曜変を鑑賞出来ればいいなあ。
 稲葉天目もまた見に行きたいものです。